===========================================================================
放電を繰り返しながら、フラフラと宙に浮く奇妙な青い玉。
沓子がそれと対峙し闘争を繰り広げているのと同日同刻、その主である総一は
館の自室で椅子に凭れ掛かり何やら思考を巡らせていた。
「――ま。――様？」
眼を閉じ遠き地へと物思いに耽る彼の者を、現実へと呼び覚ます声が響く。
「総一様？」
「沓…子…？」
「はぁ…。寝ぼけてらっしゃるのですか？沓子さんは島へ行っております」
彼が目を開けると、その眼前には呆れたような顔で総一を覗き込む女が一人。
それを認識するや否や彼の表情が曇りだし、その口からは愚痴とも何とも判断
のつかない ―恐らくは落胆の― 言葉が出てくる。
「…なんだ、シルか…」
「また沓子さんの事を心配してらっしゃったんですか？」
「あぁ…ついこの前、様子を見に行ったばかりだと言うのに…な…」
ゆっくりと、溜息を一つ吐いた。
溜息を吐いたのは彼だけではなく、従者であるシルヴィスも同様だった。
島から戻ってきてからというもの彼はほぼ毎日のように物思いに耽っている。
主がこのような状態では、忠誠を誓い忠実なる従者として頭を抱えたくなるの
は至極当然の事。
「全く…」
眼前の彼にも聞えないほどの小さな声で短く呟いてから、彼女は腑抜けた彼の
胸倉を掴むと同時に怒号を捲くし立てる。
「それでも神野の当主ですか！確りなさって下さい！主である貴方がそんな事
で、島に行っている沓子さんが安心するとでも？片腹痛いですわね！彼女の事
を本気で思うのならば、貴方が今成すべき事は何だ！」
「私の…成すべき…事…？」
「そうよ！貴方の成すべき事はただ一つ！たった一つのシンプルな事！彼女の
事を心配するのは構わない、だが、その前に当主としての尊厳と誇りを持ち、
気丈に全ての顧客のオーダーを完璧に完遂する事！それだけなのよ！貴方がそ
んな腑抜けた状態で居ると知ったら、彼女が悲しむ事を何故判らないの？」
「わ…判った…。判ったから…手を離してくれ…死んでしまう」
言われてからも暫くそのままだったが、様々な感情が入り混じり震える手を離
し彼に背を向ける。
「判れば、いいんです」
その声は、震えていた。
後ろを向いてしまった事で表情は読み取れないが、憤怒や憤慨といった感情に
よって唇を噤みながら言葉を発した事は容易に想像が出来る。
「すまない、辛い役目をさせてしまったな」
「いえ、主の理非曲直を正すのも従者の務め。お気になさらず」
「そうか…。 …ありがとう、シル」
襟元を直しながら礼を述べる彼の顔は先刻までの曇った顔ではなく、逆に晴々
としていた。そして礼を述べ終るのと同時に机の上に山積みにされている書類
へと取り掛かる。
「それでこそ、総一様ですわ…。では、お茶を淹れて参ります」
「うん、頼む。…あぁ、それからヴィルを呼んで来てくれないか？」
「ヴィルヘルム様ですね、畏まりました」
そういって、シルヴィスは部屋を後にする。
…彼女…沓子の事は確かに心配だ。
なにせ、既に覆し様のない事実に自分自身で気づいてしまったから。
ならば彼女を悲しませない為に、そして、安心して帰って来れる場所であり続
ける為に、私は私の今成すべき事をしよう。
彼女が無事に戻ってきた時に、どんな顔をして逢おうか。今から楽しみだ。
――同日、False Island 遺跡内B1F/S-17地点
「…っくしゅんっ！」
「およ？とーこさん風邪ですかー？」
青い玉との闘争を終え、数歩前を歩いているヤヨイから不意に声が掛かる。
「いえ…風邪じゃないですよ…。誰か噂してるのか…な…っくしゅ！」
「風邪じゃないならいいですけどー…。ムリしないで下さいねー？」
「ええ、ありがとうヤヨイちゃん」
『この島の中に限っては、噂なんて考えられないし…。また、シルヴィスさん
が私の事に憤慨してるのかなあ…それとも、総一様かしら…？
……まさか…ね…』
彼女はそんな事を考えながら、心なしか浮ついた表情をしつつ仲間達の後を歩
くのだった。
===========================================================================
ヴィルと呼ばれたのはドイツ系の執事、ヴィルヘルム・マイヤーのことです。
まぁ、滅多に喋らないですけど…。
そのうち喋るかもしれないね？
身内と会話してて、脳内キャラクターボイスの事で盛り上がってしまい
ちょっと考えた結果こうなった
沓子：CV・根谷美智子 or 小清水亜美
総一：CV・中田譲治 or 福山 潤
シル：CV・榊原良子
はい、ボクの趣味出まくってますね、スイマセン。
そんな感じで脳内再生しながら日記読むと楽しいかもしれない
URL
