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――島に総一とシルヴィスが来た翌日早朝の出来事――
「ん…、む…ぅ…。 朝…か」
「総一様、おはようございます」
彼が目を覚ますと、その横には懐かしい顔が覗く。
「うん、おはよう」
「紅茶になさいますか? それとも、お屋敷と同じで珈琲になさいます?」
彼女はこちらの様子を窺いながら、カチャカチャと小気味良い音を立てながら、
茶器類を手際よく並べていく
「…珈琲……いや、紅茶にしよう」
暫く何かを考えた後、そう言った。
その言葉を待っていたと言わんばかりの顔をしながら、かしこまりました、と
囁くように言い、これまた手際よく紅茶を煎れて行く。
珈琲なら自分でも入れられる。屋敷に帰れば此処よりも更に上等な物がある。
だが、『此処』には彼女が居る。
彼女の入れる紅茶は自分では出せない、いや、彼女以外では出せない味だ。
なれば今この時だけは、其れを堪能しよう。そう考えた。
一頻りの作業を終えた後、彼は紅茶の入ったカップを受け取り口を附ける。
「うん…やはり沓子の入れた紅茶は旨いな…」
「そうですか?…普通だと思いますけどねえ」
多少不思議そうな顔をしたが、それは直ぐに、誉められた事を嬉しそうな表情
へと変わった。
― 嗚呼、何も変わらない…彼女が居る…。
― そのことだけで、心が落ち着く…やはり…私は…。
「あの…総一様? どうかなさいましたか?」
心配そうな顔をして総一を覗き込む彼女が、そこには居た。
「あぁ…いや、なんでもない。そう言えばシルの姿が見えないが…
何処へ行った?」
「シル様は出立の支度をなさるそうで、機の手配をしに行ったようです」
「ふむ…そうか、了解した」
― 私…は…
それを聞いた後、カップをテーブルに置き、立ち上がる。
そのまま、後ろを向いて荷の整理をしている彼女の背後へと歩み寄る。
「沓子」
「はい? ぇ…っ!?」
彼女が振り返った瞬間、両の肩を押え半ば強引にその小さな唇を塞いだ。
柔らかな感触と共に、彼女の心地好い体温がじわりと伝わってくる。
驚きのあまり身動きが出来ない彼女。
ほんの僅かな沈黙。
時間にして見れば物の数秒ではあるが、当事者にとってはまるで時が停まった
かのような錯覚を引き起こす。
「んぅっ、むー!」
我に返った彼女が、慌ててその身から総一を引き剥がす。
「なっ、いきなりなにをっ!?」
「帰ってしまえば、暫くは逢えないからな…」
「そうですけど…」
「こうでもしなければ、沓子は素直にしてくれはしないからな」
「それにしても…強引過ぎますよ…」
唇を指で抑え、しどろもどろに受け答えをする沓子。
この恥じらいが堪らなく可愛く、愛おしい。
シルではこうはいかないのも事実。
― 自分の気持ちには、もう少し素直になるべきか…
― 私も、歳を取ったものだな…
そんなやり取りをしている間に、扉をトントンとノックする音が聞こえてくる。
シルが戻ってきたのだ。
「総一様、帰還の御支度が整いました」
「うむ、十分に堪能した。では私達は帰るとしよう」
『かしこまりました』
シルと沓子が声を揃え、共に主の後を付いて飛行場へと向かって歩き出す。
程無くして飛行場につくと、シルヴィスが手配したと思わしき一機が、今か今
かと離陸を待っていた。
「沓子、そのうちまた来る。元気でな」
「沓子さん、いつでも戻ってきていいのですから、無理はせずに」
「はい。総一様、シルヴィス様、御元気で」
彼等は笑顔で別れを告げ、それぞれの進むべき先へと向かっていったのだった。===========================================================================
ということでシル様と総一様が帰りました。
もう少し描写甘くしてもいいかなーと言う後悔もあるけど…
まぁ、いいや…
これ以上砂糖吐きつづけるとシンジャウ
少しでもニヤニヤして頂けたら幸いです
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