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合成獣に成功し、一頻りの調査 ―という名の愛玩― が終った後、仲間の元
へと合流する事にした。とある一室の中に入ると、その部屋の中央に置かれた
テーブルと椅子に付き、談義している仲間が見受けられる。そして、部屋の片
隅には一つの氷像が建っている事にも気が付く。
「おや?スウェイさん凍ってますけど…どうしたんです?」
「あぁ…、アレはカキ氷の食い過ぎじゃ…、別段気にする事はなかろう。
それよりも…なんじゃ?その娘は?」
そう答えたのはザジ・アルジェンタ。行動を共にする仲間であり、この人物
は様々な知識を持っているので非常に頼りになる。
「この子は私のペットを合成して、新たに生まれた子ですよ」
「ほう…。あの鳩と蜂がその娘になったのか…?」
「ええ、名前はカッツェと付けました。以後はその様にお呼び下さいな」
「それはいいのだが…、服のサイズがおかしいのではないか…?」
小柄な体格の娘に、長身である桐子の服を着せているのだから、それは尤も
な意見だ。
「ええ。それでザジさんを見込んで、ちょっとお願いが」
「なんじゃ…、服を作れというのか? それなら2~3日は待ってもらわぬ事に
はな…、直ぐには出来ぬぞ?」
「それは重々承知の上です。ですから、私の予備を仕立て直しして頂こうかと」
服を新たに作るには採寸、生地の選定、製図、裁断、仮縫い、本仕立て、と
いった様に、多数の工程が必要となる。その分、時間が掛かってしまうのも必
然。だが、既存の服のサイズ調整のみをする仕立てであれば、早ければ1時間
も在れば終るだろう。
「なるほど…の。とりあえず、か。良かろう、私の部屋へ来なさい」
「ありがとうございます。だからザジさん大好きですわ」
満面の笑みでの「大好き」という言葉に反応したのかどうかは判らないが、
彼女は耳まで真っ赤にして足早に自分の部屋へと向かっていったのだった。
――――
「それじゃ、この子お願いします」
「ああ、了承した。しかし、とーこは何処へ行くんじゃ?」
「私はスウェイ君のペットを合成しようかと」
彼女は桐子の言葉を聞き、顔を顰めながらこういった。
「…それは…、どうじゃろうな…」
「…? どういう意味です…?」
「いや、行けば判る」
ザジがそれ以上の言葉を発しなかったのには、何か理由があるのだろう。桐
子は詮索するのも野暮かと思ったので、「そうですか」という言葉と共に部屋
を後にした。
向かった先はスウェイのペット置き場。
その場所にはペットである狼が二匹ほど交流されている筈だったが、其処が
やけに静かな事に気がつく。彼女の中を、一抹の不安が駆け巡る。
そして、其処に入った瞬間、その不安は現実のものとなった。
「…蛻の空…? まさ…か…」
彼女の思考は在る一つの事に辿り着く。
それは『逃げられてしまった』という事。
彼女は「はあ…」と溜息をついた後、小さく呟きながら仲間の元…、正確に
はスウェイの元へと駆けて行く。
「あの方は…、本当に愚直ですね…」
再び、中間達の集会所へと辿り着き、威勢良く扉を開け、彼の名を呼ぶ。
「スウェイさん!凍ってる場合じゃ在りませんよ!」
「え…あ…、うん…」
「ペットが逃げてるんですよ!それも二匹とも!」
「…」
「知ってたんですね?」
「うん…」
生気のない返事をしている彼は、失墜に満ちた表情をしていた。
ペットに逃げられてしまった事で、相当なショックを受けていたのだろう。
「何故、こんな大事な事を話してくれなかったんですか」
「話す前にザジさんと一緒に部屋を出て行ってしまったじゃないですか…」
「いや…それはそうなのですが…」
全く持って正論である。
「ですが、それとこれとは話が別です!私があれ程訓練を怠らないようにと、
再三申し上げていたのをお忘れですか?」
「すみません…」
「まぁ、そのへんで許しときや。スウェイも反省しとる事やし…」
「黙らっしゃい!!」
彼女の一喝で、彼を庇う為に口を挟んできたシルバは身を竦ませる。
一喝されたシルバは、続けざまにスウェイを捲くし立てる彼女を尻目に、
テーブルの端で牡丹とヤヨイと共にコソコソと会話を続ける。
「怒られてしもた…」
「しょーがないですよ…あぁなったとーこさんは怖いですしー…」
「それにしても…何をあんなに怒ってるんでしょう?」
「わからんなー。多分、調査対象が減ったからじゃないん?」
「聞えてますわよ?」
何時の間にかシルバの背後に立った桐子が、怒気を孕んだ言葉を差し込む。
「私が怒っているのは、事前に判り切っている事を防げなかったからです。調
査対象がどうのという話ではありませんよ。それに、逃げられたことによって
戦力が大幅に下がった事は、最早いうまでも在りません」
「じゃぁ、アイツにどないせーちゅーねん…」
「今回の事を反省して、同じ過ちを二度と犯さなければ、それで良いです」
彼女はスウェイのほうを見据え、静かに言う。
「次は、無いと、思ってくださいね…?」
「ヒッ…! は、はいいいい!」
―――
後日、彼のペット確保のためにパーティー編成を変える事にした。彼に確保
してもらうのは勿論だが、合成獣を作ったために桐子も枠が余っているため、
別々に捕まえて、彼に譲渡する、といったやり方である。
「巧く行けば良いのだけど…」
心配なのは彼自身の魅力値と、譲渡による親密値の減少だが、何もやらない
よりは幾分かマシなのでやる事にした。譲渡に失敗したとしても、捕獲には影
響が殆どないため、保険が利く。このような自体の場合は、そういった事も最
大限に利用していくべきだろう。
何時終るとも判らない調査は、これからも続く。
それならば、せめて、後悔はしないように物事を進めていきたい。
…心から、そう、願う。
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なんかキレてますね。
こんなだから「とーこさん怖いし…」とか言われるんだなきっと…。
コワクナイヨー?全然コワクナイヨー?寧ろ優しいデスヨー?
まぁ、助言無視された上に、見事なまでに2匹に逃走されてる事に
ご立腹なんでしょう。
間違っても「あの日」でイラっとしてる訳じゃないからね?
『か、勘違いしないでよね!べ、別に…「あの日」じゃないんだから!><』
なんか言えって言われた気がしたので。
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