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『宝玉を揃えて特定の場所に持っていくと、過去を操れる』
ベルクレア所属の赤髪の青年、ギルは確かにそう言った。
過去を操れるという事は、現在を操れるという事。
そんな大それた事が本当に出来るのだろうか?
…否、この島においては常識という物は一切通用しない。
なぜならば、此処では人ならざる物が喋り、歩き、襲い掛かってくる。
そう言う場であり、空間だ。
「そんな物、興味無いわね…」
彼女はギルの言葉に対し、本当に興味なさげにそう呟いた。
「え、だって過去を操れるんですよ?凄い事だと思いますけど…」
「スウェイ君、考えても見なさい。過去を操るという事は、今現在の自分を全て
否定する事になるのよ?貴方が貴方でなくなると言う意味を持つの。それが
どういう事なのか…理解しているのかしら?」
桐子は淡々とした口調で同行者のスウェイに告げる。
「経験してきた過去が在ってこそ、今の自分がある。私は自分を否定して
まで過去を変えたいとは思わないわ…。それに…」
言葉を続けようとしたが、唖然としているスウェイの顔を見て思い直し
「なんでもないわ」と、そこで話を止めペットの元へと歩いていった。
「で、でも、本当に操れるのだとしたら、やっぱりワクワクしますよね」
「せやなー、まー眉唾もんやけどな」
「過去を操る方法なら幾らでもありますけどね。お勧めはしませんけど」
錬金術師のヤヨイがボソリと言い、同じく錬金術を操るザジも頷き同意する。
その言葉の中には、悪意とも敵意ともつかない微妙なニュアンスが見て取れ
た。恐らくは本当にお勧めできない、所謂『外法』に相当する。
得てして『空間』や『時間軸』を操作する呪法は『外法』と呼ばれ、行使す
る者は須らく身を滅ぼすと言われる。
ともすれば、宝玉を揃え過去を操るという事は、「それ」と同意義を示すこと
になる。過去を操るという事は自分の存在を否定する。正史がその事を許容
するなど、到底考えられる事ではない。何らかの形で必ず『抑止力』と呼ばれ
る物が働く。その際、抑止力に飲まれた者は正気を保っては居られない。
精神が壊れ廃人になるか、そのまま死んでしまうか…それとも存在自体が
消滅するかの何れか。それが現実だ。
― 曰く『否定からは何も生まれない』―
目をつぶらなければ価値を見つけ出せない、そんな人々も確かに存在する。
極一般的な大衆は、否定し否定されることでより強くなっていく過程を、絶対
的に愉しめないためだ。
人は弱い。
弱いが為に、否定する事を拒む。
だが、いとも簡単に過去を変えたい等と矛盾した事を言い出す。
これも弱さ故の思考。
その弱さの根底にある物は精神の幼さなのか、それとも…。
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それともなんでしょーね
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