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11日目
ベルクレア小隊との戦いを終え、一向は遺跡外へと戻った。
恐らくベルクレア達はまた邪魔をしてくるだろう、その為の準備、そして、遺跡内
探索に於いて疲労した身体を休め、英気を養う為でもある。
「はぁ…やっとベッドで休めますわね…」
「そうだね。前よりは探索日数が少ないとはいえ、内容は濃かったから疲れたね」
「キャンプ生活も悪くは在りませんが、如何せん疲れが取れませんしね」
宿場の1階に在る食堂施設のような場所で、食事を取りながら仲間達との雑談。
今回探索に置ける反省点や、今後の進路や目標地点等を談義しながら食事を取るの
は大変楽しい。こういった議論は、本来酒などを酌み交わしながら議論するのが望
ましい。本当に何気ない一言が、重大な発見に繋がる事もあるのだから。
「さて、そろそろ部屋で休みます。皆さんお先ですわ。ごきげんよう」
「おーう、ゆっくり休んでなー」
議事答弁が一段落ついたのを見計らい、沓子は席を立ち、宿の主人から指定された
上階にある自分の部屋へと向かい、その扉を静に開け中へと入る。
扉を閉め、頭上につけているヘッドドレスを取り払い、軽く髪を振り払う。
「ふ…う…。猫を被っている訳じゃないんだけど…疲れるね…」
憂いを帯びた顔つきで、誰に文句を言うでもなく呟き、ベッドに仰向けに倒れこむ。
それとほぼ同時に、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。こんな時間に誰
だろうと考えながら立ち上がり、扉を開けるとそこに居た人物は宿の主人だった。
「霧島様、お客様がお見えです。」
「え…? 私に…客…?」
「はい、男女のお二人で、ロビーでお待ちになっております」
「ちょっと、待っててください…」
沓子は先ほど外したヘッドドレスをつけ、何時でも外に出られる体制をとる。
「…っと、お待たせしました」
「では此方へ」
主人に連れられて向かった先には、外套を身に纏った男と女が一人ずつ立っていた。
どちらも若いか、彼女と同じくらいの年齢だろう。
「それでは、私は失礼致します。御用命の際にはカウンターまでお越しください」
「えぇ、判りました。ありがとうございます」
そういうと、主人は足早にカウンターの奥へと潜り込んでしまう。アレで居て、意
外と小心者なのだろうか?それとも、厄介事には巻き込まれたくないという事だろ
うか。何れにしても、彼女にとってはどうでもいい事だ。
「さて…お客様と仰いましたが…。貴方方は一体どちら様ですか?」
「はっはっは、沓子は相変らずだな」
男が彼女の名を呼び、笑いながら近づいてくる。
その聞き覚えのある声に、彼女はハッと気が付いた。
「その声…。まさか…総一様!?」
「そう、私だ。久しぶりだねぇ、元気にしてたかい?」
「何故…どうしてこの島へいらっしゃったのですか!」
「何故? そうだなぁ、久し振りに沓子に逢いたかったから、ただそれだけだな」
「な…!馬鹿な事を仰らないで下さい!」
「ふむ…私は嫌われてしまっているようだな。シルよ、どう思う?」
総一は外套を脱ぎながら、後ろに控える女性に話を振る。
シルと呼ばれた女性は、同じ様に外套を脱ぎながら答える。
「だからアレほどお止め下さいと言いましたのに…。少しは沓子さんの気持ちも汲
むべきだと思いますが…」
「そんな事言ってもなぁ…。逢いたいものは仕方がないのだよ、はっはっは」
「はぁ…判りました…。此処で立ち話もなんですし、とりあえず私の部屋へ行きま
しょう。詳しいお話はソレから聞きます」
総一の相変らずのマイペースぶりに半ば呆れながら、彼女は二人を部屋へ案内する。
「適当に座っていてください。今お茶を入れてきます」
「あぁ、沓子はそんな事はしなくていいから。シル頼んだよ」
「そんな、シル様に悪いですわ!」
「いいのよ、沓子さん。給湯室は…あそこね…。 では、行って参ります」
シルヴィスは自前のトランクケースから茶器一式を取り出し、給湯室へと向かって
いった。残された二人の間に如何ともし難い微妙な空気が流れる。暫しの沈黙。
その沈黙の空気の中、先に口火を切ったのは総一だった。
「さて、何から話したものかな…。 とりあえず、元気そうで何よりだ」
「総一様…。ただ逢いたいだけで此処に来たわけではないのでしょう?」
「いや? 沓子の顔が見たかったから。本当にそれだけだよ」
何時に無く真剣な眼差しで、人の気を知ってか知らずか真面目にこんな事を返して
くるのだから、この男は侮れない。
「…呆れた…。ですが、その行動力は流石というべきでしょうか…」
「いやぁ、実のところシル弄ってるだけじゃ張り合いなくてね。少し長めに休暇も
取れたから、いっそ島に居る沓子を弄りに行こうかと思ってさ」
そういいながら、彼はやや大袈裟な手振りをみせる。彼がこの動作をする時は、あ
る意味での照れ隠しなのだという事を、彼女は知っている。
「ふふ、まあ、そう言うことにして置きましょう」
「それで、どうだ?この島は」
「一言で言うならば、不思議な場所です。遺跡の中だというのにも関わらず、空が
在ったりして…。最近はこの生活にも慣れましたから、それなりに楽しめてますよ」
「そうか、楽しめているなら何よりだ」
明るくそういった彼の表情に、若干の影があるのを見た気がした。
「沓子は…寂しくは、ないのか?」
「そりゃ寂しいですよ。でも、調査という形の命を受け、自分で望んでこの島に来
た以上、そんな泣き言など言ってられません。それに、仲間も居ますからね」
「確かに、そうなのだが…いや、これ以上いっても無駄、か。今の君には、屋敷に
帰る気は全く無いのだね?」
「えぇ。シル様と総一様には申し訳ありませんが、そうなりますね」
「…うん、良い返事だ。」
総一は頷きながら椅子から立ち上がり、彼女の前へと歩を進める。
「では改めて、君の主として命ずる。この島の調査を続行してくれ」
「仰せのままに…」
沓子は眼前の彼の前に傅き、主の手を取り、その甲へ誓いの口付けをする。
その瞬間、背後から殺気と共に声が響いた。
「何をしているんですの?」
振り向くとそこには、何時の間に部屋へ戻ってきていたのか、怒気を孕んだ様子で
仁王立ちしながら、お茶を入れ続けるシルヴィスが立っていた。
その紅茶は止め処なくティーポットから流れ、カップから溢れ出て床を朱色に濡らす。
何処かの漫画で形容するならば、背景に『ゴゴゴゴ』といった様な擬音が、とてつ
もなく大きくついていた事だろう。
「あ、いや、これはその…」
「私を差し置いて総一様にキスなどと、良いご身分ですわね…」
徐にシルヴィスは銀のナイフを手に取り、沓子の顔目掛けて投げつける。
そのナイフは頬を掠め、ビィィンと乾いた音を立てて勢い良く壁に突き刺さった。
彼女はその刹那の間に俊敏な動作で沓子を壁に追い詰め、壁から抜き去ったナイフ
の刃を沓子の首筋に当てながら、耳元で小さく、だが確りと聞えるように囁く。
「今一度、メイドたる者の心得を、その身に刻み込んで差し上げましょうか?」
「つ…謹んでご遠慮いたしますっ!」
彼女達の夜は、こうして更けて行くのであった。===========================================================================
主である総一さんと、メイド長のシルヴィスさんを登場させてみた。
いやまぁ、本当ならもっと長いんですが、冒頭部をかなり端折ってます。
あと、後半これ以上続けると、確実に18禁どころか
20禁になってしまうのでその辺も割愛…。
アレな展開を望んでる方も多いようですが、その辺は妄想で補うって事で一つ。
まー、ラブラブですねー。イイナー。
書いてて口から砂糖が出そうになったヨ
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