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何かの小部屋

「 16日目にっき 」

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2024.11.21 Thursday 17:58

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16日目にっき

2010.02.18 Thursday 16:49

文章コミュイベント参加日記ー。
ということで、キーワード入ってます。
お暇な方は探してみてください。

===========================================================================
― シルヴィスの過去 続き ―

同じ様な花でも、咲く土地が違えば全く別の花を咲かせる事も在るという。
この館の主である彼にあの時出会っていなかったら、シルヴィスは全く別の人
生…、つまり娼婦としての道を歩み、心身ともに荒んだ生活を送る事になって
いた事だろう。

彼女がメイドとして働き初めて、既に数日が経過していた。
最初こそ覚束なかった雑務であったが、そこは流石に元貴族、物覚えは良いら
しく直ぐに仕事を忠実にこなせるようになっていった。ただ、彼女はまだ年端
も行かない小柄で細身の少女、流石に石炭の運搬や大量の洗濯物を運ぶなどの
力仕事だけは苦手のようだった。その時も石炭の運搬に苦労している所へ、主
である総司が声を掛けてきた。

『シルヴィス、少し時間を取れるかね?』
『はい?多少なら取れると思いますが…メイド長に聞いてまいります。少々お
待ちを』

彼女はそう言いつつも与えられた作業を終らせ、執務室へと足早に去っていった。
その数分後、去っていった時と同様に足早に主の下へと戻ってくる。

『今日はもう非番で良いとの事です。なんでしょう?』
『うむ、それならそれで都合が良いな…』
『?』

顎に手を当て何かを考え込み一向に用件を言わない主に、彼女は困惑を隠しき
れずに首を傾げる。

『シルヴィス、ワシと共にウィンザー城へ来て貰えぬか?』
『ウィンザー城…ですか…?私よりもエドワード様の方が適任なのでは…?』

ウィンザー城、テムズ河畔の高台にあるイギリス王室が所有している城であり、
女王陛下が週末を過ごす場所でもある。

『いや、エドには別件を頼んでいるのでな。都合が付かんのだよ。シルヴィス
は…ワシと一緒に城に行くのは嫌かね?』
『いえ、そう言う訳ではありませんが…。お役に立てるかどうか…』
『そこは心配には及ばんよ。大丈夫だ、保証しよう』

主は彼女をどうあっても連れて行きたいようだ。
彼女は渋々と言った様子でソレを承諾し、彼と共に城へと向かったのだった。
件の城はロンドンの西に位置し、その広大な古城は郊外の自然に囲まれ、丘の
下にはテムズ川が流れている。即ち此処は、かの大英帝国における権力の象徴
とも言える場所だった。
総司はラウンドタワーに王室旗が立っているのを確認し、城内へと歩を進める。

『えっ、旦那様!陛下がお見えになっていらっしゃるのに入るのですか!?』
『あぁ、言ってなかったか?今日はクイーンとの謁見で此処に来たのだよ』
『一言も聞いておりません…。そう言うことは先に仰ってください…』

彼はスマンスマンと言いながらも、歩みを止める事は無かった。そして二人は
謁見室の前に到着し、一旦呼吸を整える。

『さて、君は何時も通り給仕をしてくれれば良い』
『畏まりました。仰せのままに』
『宜しい、では行こうか』

――

恙無く謁見が終り、衛兵に見送られ屋敷へと戻る途中「寄る場所がある」と、
総司はその進路を変更した。向かった先はヴィクトリア堤防公園で、ロンドン
中央でテムズ川が大きく湾曲する部分の左岸に、へばりつくような形で作られ
ている細長い公園だった。

『どうかね?この庭は』

彼は灰皿の横に設置してあるベンチに腰掛け葉巻に火をつけながら、意図の汲
みきれないそんな他愛の無い事を聞いてくる。

『手入れの行き届いた芝生…、それに美しい花々が咲いていてとても素敵な所
だと思います…が…何故此処へ?』
『はっはっはっ。別にこれといって意味は無いがね、謁見も在って肩が凝った
だろうからリラックスのために、だよ』

「はあ…」と一応同意の旨を知らせておく事にした。

『まぁ、座りたまえよ』
『…失礼します』

断わってから、多少の距離を開けて彼の横に座る。

『此処には見過ごされがちだが、とても素晴らしいホワイトホールガーデンも
ある。それに、ガーデンにはイギリスの政治家、戦争の英雄、ゴードン将軍や
ビクトリア王朝時代のグラッドストーン首相など、歴史上の人物の像がある』
『…申し訳ありませんが、仰っている事の意図が見えないのですが…?』
『なあに、ただの薀蓄さ。些細な世間話程度に受け取ってもらえれば良い』
『然様ですか…。ですが、私は英雄などには興味在りませんね』

物鬱げな表情をしながらも、彼女はその世間話に乗ることにした。

『ほう?何故かね?』
『英雄は英雄として称えられていますが、彼らは単に自分の欲求を実行しただ
けで、元を質せばその辺りに居るようなただの人間です。結果としてその行為
が周囲に影響を及ぼしただけですし。それに、そう言う人間は往々にして素行
が悪いとも言われておりますしね…』
『ふーむ…まぁ確かに英雄色を好むとも言われてはいるが…。だが、一概にそ
う決め付けるのは良くないな。英雄の中にだってマトモな者は居るさ』
『本当に?』
『あぁ、多分な。それと…』

彼は葉巻の火をもみ消してから立ち上がり、彼女に手を差し伸べながら言った。

『君はもう少し、人生を楽しいものと見る工夫が必要かも知れんな』

夕日に照らされて、逆光でその表情は見えなかったが、彼はきっと優しく微笑
んでいた事だろう。

― それから1年後 ―

彼女はメイドの仕事もすっかりと板に付き、メイド長から職務内容を言われる
よりも前に、全ての職務を完璧にこなすほどに成長していた。

『はっはっは、ローラよりも働いているんじゃないか?』
『旦那様、笑い事では在りません。あの子、私の仕事まで全部やっちまうもん
で、今じゃ出る幕がなくなっちゃいましたよ。私も歳ですし、そろそろ引退も
考えなきゃですかねえ…』

午後のティータイムに、総司とメイド長であるローラは、シルヴィスの仕事振
りを眺めながらそんな事を話していた。彼は顎に左手を当てながら愛用の葉巻
を一息吸い、紫煙と共に予てから考えていたその言葉を吐き出す。

『ふむ…そうか…よし、こうしよう。おーい、シルヴィス!』

呼ばれた事に気づいた彼女は、全ての作業を止めて彼の下にかけよって来た。

『お呼びでしょうか?』
『うむ、色々と考えたのだが…、お前の仕事振りも板についてきたことだし、
どうだろう、ワシと共に日本へ行かないか?』
『日本…?』

世界の地名には疎いのか、彼女は何処の事だろうと首を傾げ考え込む。

『そう、日本。イギリスからかなり東の島国で、私の生まれ故郷でもある』
『故郷へお帰りになられる、と?』
『一時的にな』

彼女はその最後の言葉を聞き、なるほど、と小さな手を叩く。

『言葉が通じないかもしれませんが…大丈夫でしょうか?』
『大丈夫だ。なーに、君なら直ぐに覚えられるさ』
『はぁ…出立は何時頃でしょう?』
『明後日の朝だ。それまでに必要なものを纏めておきなさい』
『畏まりました』

――

出立の朝、総司とシルヴィスは揃って飛行場へと向かった。その際、総司は彼
女の手荷物を見て、幾らなんでも少なすぎるだろう、と言ったが、彼女にして
見れば持っていくような大切な物は、生活内容からして殆ど無いに等しい。
今までの生活を鑑みれば、必然的に量が少なくなるのは当たり前の事だった。

出国審査も終り、機に搭乗して離陸を待つ間、シルヴィスは日本の事を知る為
に、総司へアレやコレやと質問をしていた。彼は此処数年帰国をしておらず、
どのように様変わりしているかは判らないが、ある程度の先進国である以上街
並みは必ず変わっているだろうと言っていた。そして、離陸が始まり機内アナ
ウンスが流れる中で、彼には孫が一人居る事も聞いた。シルヴィスと同い年く
らいで、名前は総一というらしい。

『孫と友達になってやってくれないか』
『旦那様のお孫さんである以上、私にとっては主と変わりませんので、失礼な
がらそれには承諾しかねます』
『其処まで堅くならなくても良いと思うんだがね…』

彼が複雑な感情が織り交ざった表情でぼそりと呟いたのを見逃さない。

『…。旦那様がどうしてもと仰るのであれば…』
『…そうか、ありがとう。総一の事をよろしく頼むよ』

彼は自分の顔の前で神に祈るような形に手を合わせ、安著の一言と共に笑みを
浮かべたのだった。

――

「と、この様にして総司様、そして総一様と出会った訳です」
「成る程…爺様とはそんな出会いだったのか…」
「だから肖像画の前でお祈りしてたんですね…」
「ええ。今でも進むべき道を正して下さり、総一様に仕かせて下さった旦那様
には、感謝しておりますから」

話を終えた彼女の顔は、今まで一度も見たことの無いようなとても穏やかな表
情をしていた。これが本来の彼女の素顔なのだろう。その表情を見た沓子が、
目をきらきら輝かせながら感嘆の言葉を漏らす。

「シル様…凄く綺麗…」
「っ…!」

その言葉を聞いた彼女は耳の先まで真っ赤になり、そのまま俯いてしまう。

「あは、照れる事無いですよー。本当に綺麗なんですから」

そういって、シルヴィスの頬に手を伸ばし半ば無理矢理にその顔を上げさせる。

「ちょ…な、なにをっ…」
「シル様、照れたお顔も素敵です…」

沓子はシルヴィスの首筋に手を這わせ、そのままゆっくりとその手を肢体へと
這わせていく。傍から見ていれば、とても煽情的な絵に見える事だろう。

「あ、ちょっと…沓子さん…やめ…」
「あはっ、食べちゃいたい位ですよ」
「う…ぁ…。…こ…の…いい加減止めなさい!」

彼女の手が鎖骨を超えた辺りで、ゴッという音と共にシルヴィスの拳が沓子の
眉間を捉えた。それと同時に、胸に差し掛かる寸前でその手が止まる。

「うう…シル様ヒドイ…痛いですよう…」
「馬鹿な事してるからでしょう!」
「わーん、総一様ー、シル様が苛めますー」
「そうかそうか、シルは酷い事するなぁ」

沓子は泣き真似をしながら総一に抱きつきそんな事を言い始めた。こうすれば
シルヴィスが慌てふためくのを知っていて、わざとやっているのだ。総一もそ
の事を瞬時に理解し、その様を楽しむために策に乗り、沓子の頭をわざとらし
く撫で始める。

「ちょっと!私が悪いんですか!?それより沓子さん、総一様から離れなさい!」
「やですー!」

こうして一頻りの茶番と共に、彼女たちの一夜は幕を閉じたのだった。===========================================================================

一応、15日目からの続き物という形になってます。
元々シルヴィスたんは貴族の出なので、割と何でも出来る子という設定で書いてみた。
途中に出てくる名前エドワードとローラのご両名は以下のような感じです。

Edward Carter:エドワード・カーター(総司のメイン執事:細身長身の壮年男性)
Laura Rundall:ローラ・ランドール(総司のメイド長:恰幅のよい女性)

まぁ在り来たりではありますが…
執事の名前…セバスチャンだけは避けたかったんだ…w

後キーワード難しくて大分浮いてる気がします。
他の皆さんは隠すの巧いなぁと感心するばかり。
もっと反芻すべきだったわー

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